700年の歴史をもつタイの美しい古都チェンマイ。
緑のステープ山、市中に点在する古寺の数々、
賑やかなマーケット、オシャレなカフェやレストラン…。
日本でいえば京都のようなこの街に
2004年10月17日、ある日本人家族が降り立った。
写真家・映像作家の奥野安彦とライターの佐保美恵子、
当時11歳の娘・藍海(あみ)と4歳の息子・光(こう)の四人連れ。
長年暮らした横浜の住まいも車も、きれいさっぱり整理して、
雑誌の仕事にも潔くサヨナラし、
新しい「人生の物語」をこの北タイで始めるために。
移住5年目にして初めて明かす、
試行錯誤と七転八倒、笑いと涙のチェンマイ暮らしの物語。
友人たちを巻き込み、呆れさせ、ついには同情を買い、
それはまるで「夜逃げ」のように始まった…。
|
||
![]() あー、飛行機が行ってしまうー! 「えーっ、飛行機の出発時間まであと45分! もう間に合わないよぉー!」 私は、思わず顔面蒼白…。 それは2002年3月25日、家族で初めてタイを訪れるため、 奥野さんの運転する車で成田空港に向かう途中のことでした。 後部座席のチャイルドシートでは当時、 2歳半の息子がモグモグとバナナを頬張っていた…。 なぜかそれは鮮明に覚えています。 私は原稿の締め切りにおわれ、徹夜仕事の末に自宅を出発。 車中でつい眠り込み、成田空港検問所のはるか手前で 目が覚めたところでした。 そういえば自宅を出るとき、朦朧とした頭で 奥野さんから受け取った旅行代理店からの未開封の封筒が…。 ちょっと気になって開封したら、これが大変! 「出発のご案内」に書かれている出発時間が 奥野さんから聞いた時間より2時間も早いではないですか! 「奥ちゃん、出発時間が違うよ! どういうこと!?」 バックシートから声を荒げて詰め寄る私。 「えー、おかしいなあ…。 申し込んだときの時間と違うなんて…。 もしかして変更になったのかなあ…」 “極楽トンボ”の奥野さんも、このときばかりは不安げな声。 「旅行代理店からの大事な手紙なのに なぜ事前に開封しなかったの! あと45分じゃ、どう考えたって間に合わない!」 私は焦りを通り越して怒り心頭。 「そんなこと言われたって、仕事で忙しかったし…。 ミエコだって自分で確認すればいいだろう! ボクのせいにするな! 家族の問題は連帯責任だ!」 訳のわからない弁解が始まります。 「ねえ、お父さんもお母さんもケンカやめて…。 せっかくみんなでタイに行くのに…」 9歳の娘のひとことで、思わず我に返る私たち。 チャイルドシートの息子は相変わらず、口モグ状態。 そうだ、車中で夫婦喧嘩している場合ではない。 万が一ということだってあるかも。 とにかく今は先を急げー! 目指す長期利用の駐車場に到着し、慌てて車を乗り入れると、 なんと空港行きの送迎バスが今にも出発しそうに…。 私は思わず車を飛び降りて、バスの前に立ちはだかり 運転手に必死で両手を振って大声で叫んでいました。 「スイマセーン! 私たちも乗せてー。お願いしまーす!」 停車したバスに子連れで飛び乗り、肩で息をしていると 運転手が怪訝そうな顔で尋ねてきます。 「お客さん、出発時間までどれくらいなの?」 「えっ、えーと実はその…、30分しかないんです…」 「えーっ、いくらなんでもそりゃ無理だあ。 おまけに今日は春休みで渋滞してるからねえ」 運転手のおじさんもさすがに呆れ顔。 大勢の乗客の冷ややかな視線も感じます…。 「でも、でも出発が遅れるってことだってあるでしょ。 とにかく急いでください。なんとかお願いします!」 勝手にバスを止めておいて、まったくわがままな乗客です。 空港に着いたのは結局、出発時間の10分前でした。 それでもあきらめない奥野さん。 「ミエコ、カウンターに走れー! ボクが荷物全部とあみを連れて行くから、 心配するなー。急げー!」 奥野さんに命令され、私は息子をラグビーボールのように 左の脇にしっかり抱え込み、 右肩から重いショルダーバッグを引っさげて カウンターにダッシュ。 こういうとき、母はじつにたくましい! しかし残念ながら、奇跡は…、やはり起こりませんでした。 「お客様、申し訳ございませんが この便はそろそろ離陸体制に入りますので…」 地上スタッフの説明に呆然と立ち尽くす3人家族+1人。 親子揃ってよほど情けない顔をしていたのでしょう。 タイ航空の地上スタッフも同情顔です。 あぁ、今夜はもう成田でホテル泊まり。 でも果たして明日、無事に飛び立てるのか…。 なにしろ春休みは始まったばかり。 (さて、家族4人はこのあとどうなったか…。 この続きは9月7日(月)の第4回をお楽しみに!) 「夜逃げで、チェンマイ」は週2回、 通常、月曜日と木曜日にアップされます。 |
||
佐保美恵子:ノンフィクションライター&ビデオディレクター |
![]() | |
ホームへ |
|
|
|
||||||
|
|
|
||||||
|
|
|
||||||
|