旧知のライターの朝山さんに登場願った。
もう何年前でしょうか?
う〜ん、20年はこえると思うのですが。大阪から東京に出てこられて、直ぐに友人の紹介で会い、仕事を始めたりしたのです。以来、20年?ライターとカメラマンという関係で仕事をしてきました。
 その朝山さん、ずいぶんと著者インタビューを手がけてきました。朝山さんが選ぶ人選ぶ人、皆さんどんどんメジャーな賞を取って巨匠になる。なので、巨匠なる前の作家を知っている、僕も写真を撮ったりしている。この巨匠、えらくなる前は服屋さんだったんだよなんてね、思ったり出来る。
 そんな朝山さん、見る目がある朝山さんに日刊チェンマイ新聞でも書評をお願いしたのです。
奥野


 

写真をクリックするとAmazonに移動します。

page 1

【いつも本の中に、、】 『聞く力 心をひらく35のヒント』阿川佐和子、文春新書、

   インタビュー相手が有名人だと、まず事
前に資料を集めたりする。そういうときに
チェックしておきたいのは、「週刊文春」
の阿川対談と、同誌の「『家』の履歴書」
だ。
   後者は、どんな家に暮らしてきたのか。
家のまつわる記憶をひもときながらなので、
通常のインタビューだと、聞き出せない逸
話が多い。阿川対談のほうは、話題のひと
を取り上げのは同じでも、他のメディアと
は一味、二味も違った話が載っている。

   よくあんなことまでしゃべっちゃいまし
たね。面白かったですよと、阿川対談の体
験者に水を向けると、「いゃあ、ついポロ
ポロとしゃべってしまって。帰り道、めち
ゃくちゃ落ち込んでしまって」と、首筋を
なでる俳優さんが何人もいた。
   週刊誌のインタビュー欄に登場するひと
たちは何かの告知を兼ねて出てくることが
ほとんどだが、阿川対談では、それはそれ
として、ひょいと余計なほうに話が広がっ
ていく。話すほうは出演した映画の話なん
かを一杯載せてほしいと思っているのに、
どんどん脱線し、硬い殻がぽろぽろと剥が
れ落ち、チャーミングな一面が見えるもの
だから結果的に、作家さんなら本を読んで
みようかというふうにもなる。
   ただ、ご当人は、しゃべりながら、そういう
話よりも、きょうは使命を帯びてきて
いるんだからという思いもあり、本論に入
ってよっていう、綱引きとギャップがまた
面白くもあるのだ。

page 1

1 2 3 4 5 6 7
page 2

   で、口の重いひとだろうとしゃべらせてしまう、
コワモテのインタビュアーのイメージを阿
川さんに対しては抱いてきた。ビートだけ
しさんの「TVタックル」でアシスタント
をされているときの、一触即発の空気にな
り、たけしさんが、まいったよって顔つき
をしていると、巧みに割って入るあの凄腕
さを見ていると、なおさらだ。
   だから、20年近く連載が続いていると
うのに、インタビューの前はいまでも緊張
するというのを読んで、へぇーと思った。
   最初のころのそれとは違った緊張で、い
まだって流してなんかやってはいませんよ
というエクスキューズの意味も加味してあ
るのだろう。
   それに、個人的には、どんな職種に関わ
らず、さぁ仕事だってときに見せる一瞬の
切り替えの表情が好きだったりするので、
いつまでたっても緊張しますという態度に
好感を抱いてしまう。

page 2

1 2 3 4 5 6 7
page 3

   「TVタックル」といえば、テンション
高くしゃべっているひとを黙らせる際のコツ
が書いてある。話の流れを耳に入れながら、
そろそろ話のピリオドだなというときに、
神経を集中させるのは、そのひとの息継ぎ
だという。
  《出した息を吸い込まなければならない。
その短い瞬間を狙って、
   「で、三宅(久之)さんは、どう思われます
か?」と、他の発言したそうな人にバトンを渡す。
それをあまりに早くやりすぎると、
話を中断されたゲストは気分を害しますから、
そこはタイミングと話の内容をよく吟味し
て。》

   そっかぁ。困ったって顔をしているとき
の阿川さんは、息継ぎのタイミングをはか
っていたのか。でも、ここで書いちゃった
ら、あとあとこの手を使うたび、本を読ん
だひとは、ニャッとするだろうな。

page 3

1 2 3 4 5 6 7
page 4

   しかし、週一回ペースでのインタビュー
を重ねていくのに何が大変かというと、自
分の好みで人選しているわけではないこと
だ。まったく関心のなかったジャンルのひ
とにも会って話を聞きださないといけない
こともある。そんなときの気の重たさにつ
いても書いてもいる。エライなぁと思うの
は、苦手ですからとか、知りませんからと
いうのを理由にして断らないことだ。
   ゴジラこと松井秀喜選手がまだ巨人軍の
若手だった頃に対談に出てもらったときの
こと。阿川さんは、野球について、まわり
がびっくりするくらい知らなかった。それ
でも、どうにかこうにか話がつながってく
ことはできた。安堵しかけた頃に、高校時
代のガールフレンドの幼なじみがライバル
校のエースで……、と松井選手が話しはじ
めた。気を緩めてしまったのか、
「それはバッターで?」と訊ね返したのだ。
   居合わせたギャラリーはざわつき、阿川
さんも異変が気づいた。
   松井選手が、
「……ピッチャーです、エースって(笑)」
「あ、いや、ハハハハ。そうか、エースっ
てピッチャーのことだけを言うのか。優秀
なバッターは、エースって呼ばないの?」
   と、阿川さん。そこで、思ったそうだ。
野球に関する質問をいくつもしながら、
よしよしバレなかったぞと胸をなで下ろして
いたけれど、最初からバレていたんだろなと。
   きっと、そうでしょう。でも、逆な見方
をすると、そういうエピソードを知ると、
相手が野球に無知であっても不機嫌になっ
たりしない松井選手(秀でたひとというの
は、案外そうなんだと思う。不機嫌になる
としたら、知識の有無でなく、聞こうとす
るときの態度なんでしょうね)というのが
見えて、たしか昔読んだ記憶はあるなぁと
思うものの、もう一回読んでみたくなる。
   そういう気詰まりな場で、どういう態度
をとるかで、ひとの真価はあらわれるものだ。

 

page 4

1 2 3 4 5 6 7
page 5

   阿川さんの本の中に、同様な話がもう一
つある。まだ「若貴」が仲良かったころ、
お兄ちゃんに続いて貴乃花関をインタビュ
ーすることになった。口数少ない訥々とし
た調子で対談は終えようとしていたそのと
き阿川さんが、
   「では、今場所への豊富を伺えますでしょ
うか?」と質問した。とたんに貴乃花関が、
プッと吹き出してしまった。
    面食らった阿川さんに、貴乃花関はこう
言ったそうだ。
   「だって、アガワさんが相撲の質問をする
から」
   阿川さんは、2時間のインタビュー中、
私はずっと相撲の質問をしていたじゃない
ですかと言い返したものの、貴乃花関の笑
い顔に、ハッとしたのだという。以来、無
謀な知ったかぶりはやめようと決心したと
話をしめくくっている。
   ああやっちゃったね、という失敗の場面
にどうしたかのほうが、相手の素が見える
ことが多いし、先の二人を相手に阿川さん
は頭の中では、きょうは話が弾まないなぁ
と思っていただろう。そのまま終わってい
たら、よくあるつまんないインタビューで
しかないのが、どんな質問にも嫌な顔をし
なかったというふうに二人の印象がイッキ
に反転する。ミステリーなら、どんでん返
しといったりする、あれだ。

page 5

1 2 3 4 5 6 7
page 6

   ほかにも、教訓めいた話題は多い。準備
を怠らないのはもちろんだけど、用意した
「次の質問」にとらわれすぎると肝心の話
を聞きのがしてしまうことになる。インタ
ビュー中は、話に集中していれば、自然と
次に訊きたいことが浮かんでくるものなん
ですよ──といったインタビューの極意と
いうか基本について、いろいろ記してあり、
初心に立ち返らなきゃなって気持ちになっ
たりする。
   そもそも阿川さんはインタビューの達人
のように見えるが、もともとは話を聞くと
いうのが苦手だったという。だからよかっ
たのかもしれない。
   質問のコツについても、うんちくめいた
技術の披露ではなく、こういうひとたちに
話を聞いたりするうちに学んだというふう
にして、気づいていなかった自分をネタに
している。教えてあげるよ、ではないのだ。
   たけしさんや鶴瓶さんや遠藤周作さんと
いった聞き手の名人たちから、こんなこと
を学びましたって、赤ッ恥をまじえつつの
上目づかいさがヒットの理由なのかも。
   説明すると長くなるのでハショりますが、
あのデーモン閣下に、「あの、ヘビィメタ
って、なんですか」と、おそるおそる質問
をしたときの話が好きだ。答え方にデーモ
ンさんの人柄がよく出ているとともに、
「聞く」って奥が深いんだなぁと思った。
もろん閣下を好きにもなった。

page 6

1 2 3 4 5 6 7
page 7


『アフター・ザ・レッド 連合赤軍 兵士たちの40年』(角川書店)


本をクリックするとアマゾンへ移動。

 末尾を借りて、拙著の宣伝です。
あさま山荘事件から、今年で40年。山
荘を壊す巨大な鉄球や銃撃戦を記憶してお
られる人は少なくないと思いますが、あの
事件に関わった若者たちは刑期を終え、社
会復帰した後、何を思い、どのようにして
生きたのか。14人もの仲間を殺害してし
まったことを彼らはどう気持ちの上で整理
してきたのか、できずにきたのかをロング
インタビューしたものです。テーマのわり
に、インタビュアーの癖なのでしょう、亡
くなったお父さんの戒名をどうしたのかと
か、あちこち事件とは離れたフツーな話題
に脱線しています。

page 7

1 2 3 4 5 6 7
 

Profile/プロフィール

朝山 実(あさやま・じつ) 1956年、兵庫県 生まれ。地質調査員、書店員などを経て 、ライターとなる。「居 場所探し」をテーマに人物ルポやインタビューを数多く手がける。著書に『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP 社)、映画のノベライズ『パッチギ!』(キネマ旬報 社) 、アフター・ザ・レッド 連合赤軍 兵士たちの40年』(KADOKAWA)、『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社)など