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日刊チェンマイ新聞

ユニクロと選挙とコールセンター

 最近読んで面白かったノンフィクションといえば、①『ユニクロ潜入一年』横田増生(文藝春秋)、②『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』畠山理仁(集英社)、③『だから、居場所が欲しかった。 バンコク、コールセンターで働く日本人』水谷竹秀(集英社)だ。

 3冊に共通するのは、取材現場が目に浮かんでくる。しっかり耳を傾けている点だ。


①『ユニクロ潜入一年』は、ユニクロの3店舗にパートタイム勤務したルポルタージュ。働いたからこそ目にできたものがいくつもある。休憩室の掲示板はそのひとつ。毎週の「部長会議ニュース」は、職場の全員が目を通すように義務付けられ、柳井正社長の訓示が載っている。横田さんはこのレポートの誰よりも熱心な読者。「愛読者」だからこそ、発言に一貫性がないという。

 「ユニクロ教」というのがあるらしい。効率重視。少数精鋭主義の会社で、働きアリのようと動きまわる様子を端的に描き出している。活気をだすための「声だし」。ああ、あれね。解説されて、そういう意味なのかと納得。「感謝祭」と呼ばれるユニクロが力を入れるイベント期間は大混雑し、どのようにしてレジの数秒のムダを削るかを真剣に議論している。まごまごしているお客さんの扱いに対して、横田さんは誰への「感謝」なのかと疑問を感じる。何番のレジと指図するリーダー、あなたがレジ一台を引き受けたらどうなんだと。横田さんは、いろんな改善策を提言している。スパイなのに(笑)。黙っていりゃいいものを。つい、よくしょうとする。が、大半が却下される。トップダウンの企業だなぁという印象を受ける。
 でも、たまにアイデアが採用され、ユニクロ信者になりかけそうになる瞬間がある。セールの展示を工夫し、ストックを完売する。どれだけ熱心なのか。ユニクロ製品を、え!?そんなにというくらいまとめ買いをする。「ユニクロの売上げを伸ばすことが潜入取材の主な目的ではないのだが」と、立ち止まる場面がいい。

 勤務したのは「ビックロ新宿東店」を含む3店舗。数ヶ月勤めては、規模と場所の異なる店舗の採用面接を受けなおす。この面接場面の詳細が面白い。とくにビックロ店でのやりとりは、トップが掲げる理念と現場の実態に齟齬があることを明らかにしている。横田さんの意気込みが伝わるのは、「潜入」にあたって一度離婚し、再婚していたことだ。妻の姓になり、横田の名前を捨てている。なぜそこまでして、ユニクロで働こうとしたのか?
 横田さんの前著に『ユニクロ帝国の光と影』(文春文庫)がある。書かれていることが名誉毀損にあたるとしてユニクロに訴えられ、最高裁まで争い、上告棄却でユニクロ敗訴が確定したのが2014年12月のこと。争点は、月300時間を越える労働はあったのか。これを受け、翌年4月、横田さんはファーストリテイリングの中間決算会見へ参加しようとしたところ、名指しで参加を拒まれた。
 広報部長が告げた。「柳井から、横田さんの決算会見への参加をお断りするようにとの伝言をあずかっています」。その声はすまなそうだったという。これがジャーナリスト魂に火をつけることになる決定打となった。
 というのも、この一ヶ月前の雑誌の対談記事で、柳井社長は「ブラック企業」との批判に対して反論し、こう述べた。「悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど。会社見学をしてもらって、あるいは社員やアルバイトとしてうちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかぜひ体験してもらいたいですね」
 ユニクロの記事、柳井社長に関するものはくまなくチェックしている横井さんである。上等じゃねえか。だったら、働かせてもらおうじゃないかというわけだ。

 怒りが発端ではあるものの、潜入にあたっての横田さんの行動は冷静だし、細心だ。名前まで変えるのだから。根がまじめ人間なのだろう。じつによく働く。改善案も提言する。「部長会議ニュース」を読み続け、社長の指示に一貫性がない。なぜ、方針が逆転するのかも分析してみせる。ファンなのか。ある意味、誰よりも柳井氏を知る男になっていく。そこだけを読むと怜悧な潜入者だが、「うっかり」をやらせかしてしまう。変えた名前がなじまず、同僚に呼ばれても気づかずにいる。つい、横田とサインしそうになる。コントみたいな愛嬌があるのが、横田さんの持ち味だ。
 潜入によって明らかになってくるのは、ワンマン企業にありがちなことだが、王様はバタカ状態。社長の店舗視察は一週間前に報告され、現場は台風を待ち構える状態。こんなシーン、どこかで聞いたなぁと思った。ダイエーが躍進をきわめていた頃だ。
「サービス残業は絶対発生させてはいけない」と柳井社長は断言する。嘘はないのだろう。しかし、現場はそうなっていない。店長が率先して残業しないとならない。させてはいけないとトップは断言。現場はできずにいる。実際に現場を体験し、繁忙期に学生アルバイトが授業に出られず、辞めたいと申し出ると店長が「契約違反だ」と声をあらげるシーンがある。代わりがいないから店長も必死なのはわかるが、すげぇ。びっくりだ。

 終章で、横田さんは、「もし柳井社長が、本気でユニクロをいい会社にしたいのなら、社長という身分を隠し、ユニクロの現場でアルバイトとして働いてみてはどうだろう。柳井社長自身が『奴隷の仕事だよ』と自社の社員が言い放ったビックロの荷受けをやってみてはどうだろう。」と記している。
 ビックロの荷捌き場には床の塗装が剥がれた箇所がいくつもあり、新人バイトたちは決まって台車をひっくり返す。上司に報告したが、無視されている。柳井さんは、本書を読んだだろうか。無視を決め込むのだろうか。対応の仕方で、ユニクロの将来も占えそうだ。
 というジャーナリズム的に読むべきポイントは随所にあるのだが、このルポのいちばんの妙味は、しばしば休憩室で、ときにはフロアーでの会話から見えてくる人物群像だ。店長によってこんなにユニクロの印象もかわる。複数の店舗を渡り歩いたからこそ掴めたものは、スタッフからの人望あつい店長もいれば、感情的に暴論を吐くエリート店長もいる。店長の対比はニッポンのいまを実によく映し出している。
(つづく)

Profile/プロフィール

「ウラカタ伝」 waniwanio.hatenadiary.com

ブログのインタビュー連載 「葬儀屋、はじめました。」

otomu.hatenadiary.com

朝山 実(あさやま・じつ) 1956年、兵庫県 生まれ。地質調査員、書店員などを経て 、ライターとなる。「居 場所探し」をテーマに人物ルポやインタビューを数多く手がける。著書に『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP 社)、映画のノベライズ『パッチギ!』(キネマ旬報 社) 、アフター・ザ・レッド 連合赤軍 兵士たちの40年』(KADOKAWA)、『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社)など


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