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日刊チェンマイ新聞

乾くるみ『物件探偵』新潮社



  買ったばかりのマンションのドアを開けたら、
 「部屋が泣いています」
 と言い出す女が立っていたらどうする?


 シュミというほどでもないが、時間があるとネットで賃貸物件を見たりしている。旅先で不動産屋の店頭に貼ってあるチラシを眺めるのもけっこう好きだ。そういうこともあって、カバーに惹かれて手にとったのが『物件探偵』。連作短編集で、各話の扉にも、間取り図のあるチラシがあり、話もなかなかリアルで面白い。

 たとえば、中山繁行さん(第一話「田町9分1DKの謎)の事案は、こんな具合。父親の遺産を元手に、中古賃貸マンションを購入した。

  1200万円の1DKの物件で、賃貸中の月額が13万2千円。管理費と修繕積立金を合わせて、月1万2千円。さらに固定資産税などを引いたぶんが収益となる。良い買い物だ、と思っていた。が、間もなく、入居者が退去する。

 ドラマはここからで、中山さんが空き部屋に入ってみると、これで「家賃13万⁉」とびっくりするほどのみすぼらしさ。いくら交通の便がいいといっても。5万は割高じゃないか。騙されたのではないか?

 そもそもの失敗は、住人がいたために現況確認ができずにいたからだ。部屋の退去確認に同行した、管理会社を兼ねる不動産屋の営業マンからは、すかさずリフォームをすすめられ、思わぬ出費に二の足を踏んでいると、大幅な値下げをしないかぎり借り手はいないと脅される。おいおい、いい買い物だと背中を押したのは、お前だろうと言いたいのは山々だが、ショックが大きかったのだろう。呆然としていたところに、あらわれるのが、この連作短編シリーズの「影の主人公」である。

 タイトルの「物件探偵」というのは作者の造語だろうが、カバーに描かれるスーツ姿の彼女、通常「探偵」は誰かの依頼を受けて調査をするものだけど、お金をもらったりしない。しかも第二話以降、彼女があらわれる場面が徐々に遅くなる。

 あらわれ方も毎回決まっていて、トラブルに頭を抱え込んだ主人公の部屋の前に立ち、
「おかしな人間ではありません」
 とパスケースを見せる。おかしくないとジブンで言うあたり相当に怪しいのだが、パスに挟まっているのは「宅地建物取引主任者証」で、「不動尊子」とある。

「ふどうそん……こ?」
「いえ、ふどう、たかこです。人からは当然、不動さんと呼ばれます。それが不動産屋の不動産と同じ音であることをひとつの縁と考えて、宅建の資格を取ったのが十五歳、中学三年生のときでした……」

 流暢にいっきに話す。パスを見せては、同じ口上を述べ、その都度、強引に主人公たちが購入した部屋(ときにはアパートの大家だったりもする)に入りこんでいく彼女には、「物件の気持ちがわかる」という霊感みたいな特殊能力があり、頼まれもしいないのにトラブル解決に乗り出すのだ。無報酬のボランティアのような活動といい、十分に怪しすぎる存在である。

 本業は何?どうやって食っていけてるの?読者としては当然ツッコミたいところだが、「不動さん」の素性は一向に明らかとならない。本書のいちばんの謎は、彼女自身だといってもいいが、ここでの主人公は「怪しい取引」にある。

 つまり、この小説が面白いのは、「マンガで知る〇〇」みたいに、ふんふんと読みながら、手の込んだ詐欺まがいの不動産取引のカラクリなどを解き明かしてくれることにある。第一話の謎は、割高な部屋に13万円も払う入居者がいたことだ。

 購入前に、室内の確認をすることができていたら、中山さんも疑問に思ったはずだが、そこは「入居中」で部屋を下見できない事情がある。それを利用しての「交換殺人」ならぬ「交換賃貸」という巧妙な手口が紹介される。

こんなことが本当にあるのかどうか。あってもおかしくない、と思わせるくらいの現実味がある。以降の話も、不動産屋の社員がアパートの一室の賃貸料を着服していたり、上階の騒音を注意したところ逆恨みが始まったり、という「ありそうな話」が続く。

 バラバラ殺人事件などのハデさはないが、ゴミが埋まっていたから8億円値引きしたとかいう例のモリトモ問題で覚えた「瑕疵担保免責」や「現況有姿」に関するハナシも出てきて、へーとか、ほーとか勉強になってオトクな気がする。

 と、ここまでが読んだばかりの本のハナシ。そういえば、いつものようにネットで賃貸物件を検索したりして、転居して一年になるなぁと思っていたら、お隣さんから「〇日に引っ越しします」という挨拶状がポストに投函されていた。

 どこかにお勤めの女性だったが、顔を合わせたのは朝のゴミ出しのときの数回きり。まったくといっていいほど、物音が聴こえてこなかった。そういえば、昔友人の部屋に泊まったときに、「隣の物音がしなさぎるので、自分もテレビの音とか小さくして見ている」という。

   友人の木造アパートの階下は、小料理屋で、お昼時になると仕込みをする音が聴こえてきたりしていたから、物音のしないお隣さんの暮らしぶりに想像をかきたてられたことがあった。

 もしや下界に仮住まいしているツルじゃないのかとか。
それでワタシが住むマンションは、各フロアに2室。全部で4室きりというこじんまりしたもの。ポストに入っていた、プリントされた挨拶状とお茶のパックがセットになっていて、おそらく各部屋に配ったんだろう。おおよそ2千円の出費だな。「引っ越し日の前後には、ご迷惑をおかけします…」みたいなことが簡潔に書かれていた。

 30前後じゃなかったかなぁ。事前にお知らせして出ていくなんて、若いのにできたひとである。ワタシなんか、はるかにトシ上なのに、前のマンションを出ていくときに両隣にも挨拶しなかったもんなあ。

 外でバッタリ、階下の大家と合うと、「どこかに家を買われたみたいですね。詳しくは聞かなかったけど。ほら、いまは聞いちゃいけないかなと思って」と、商人を思わすにこやかな顔。「でも、いなくなられると寂しくなりますよねぇ。いいひとたちだったから」

「たち」ということばで、一年前に引っ越しの挨拶をしたときにドアを開けられた男の人のことが頭に浮かんだ。お隣は感じのいい若い男の人のひとり住まい。当初はそう思っていたが、しばらくして雨の日にビニール傘が二つ玄関口に立てかけてあった。

 その男の人とは最初の挨拶のときだけで、ゴミ出しのときに目にしたのは勤め人らしき女性だった。結局ろくに会話もせず一年が過ぎ、隣が空き部屋となるというのは妙なものだ。挨拶もなくサッサと出て行かれていたら、どうだったろうか。ワンフロアに2室という環境のせいなのか、かすかにでもあった気配がなくなるといことに、もやっとしたものを感じている。あえてならたとえる「東京物語」のラストシーンみたいなものというか。でも、こういうのもまたじきに忘れていくのだろうな。

Profile/プロフィール

「ウラカタ伝」 waniwanio.hatenadiary.com

ブログのインタビュー連載 「葬儀屋、はじめました。」

otomu.hatenadiary.com

朝山 実(あさやま・じつ) 1956年、兵庫県 生まれ。地質調査員、書店員などを経て 、ライターとなる。「居 場所探し」をテーマに人物ルポやインタビューを数多く手がける。著書に『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP 社)、映画のノベライズ『パッチギ!』(キネマ旬報 社) 、アフター・ザ・レッド 連合赤軍 兵士たちの40年』(KADOKAWA)、『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社)など


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