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日刊チェンマイ新聞

平田俊子『低反発枕草子』幻戯書房



  なぜかひかれる謎の部屋…

 母親がいつも宅配便で送ってくる、煮物なんかを詰めた段ボール箱の底から煮汁が漏れて困る、というような日常のあるある話が詰まった、詩人の平田俊子さんのエッセイ集『低反発枕草子』(幻戯書房) のなかに、賃貸物件を検索していて見つけた部屋のことが書かれている。

 物件は、66㎡のワンルームマンション。
《部屋の中央がやや高くなっており、そこに立派なバスタブが埋め込まれているのだ。普通、バスタブは浴室にある。が、その部屋は違っていた。バスタブを隠すドアもカーテンもなく、部屋全体が浴室のような感じだった。》

 好奇心から平田さんは、不動産屋に連絡して現物を見せてもらうことに。ドアを開けると、間取り図どおりの部屋がある。

 小さな洗面所の横に、小さな電磁調理器。

玄関そばにトイレはあるものの、キッチンが見当たらない。

《電磁調理器でお湯はわかせるけれど、洗面所で大根やキャベツを洗ったり切ったりするのは難しそうだ。
「何だか変わった部屋ですねえ」
「僕もこんな部屋は初めて見ました」と不動産屋さん。「ここは分譲マンションで、最初は普通の間取りだったはずですが、オーナーさんがリフォームしたんでしょうね」。
 バスタブはジェットバス付で、長さが百八十センチある。オーナーはよほどお風呂好きなのだろう。そして料理はしないのだろう。》

 壁の色はブルーで、セミダブルのベッドや大きな机にリッパな椅子も付いていて、使用していいらしい。しかし、広い空間なのに、わざわざベッドの傍に大型冷蔵庫というのはどういう生活スタイルなんだろうか? 

 平田さんは、その後も気になってしばらく、この部屋のことをネットで調べていたというが、ある日、消えていたそうだ。こういう部屋に入居するなんてどういう人物なんだろう…。

 そういえば、昔ワタシが取材で訪れた作家さん(女性)のマンションで、ドキリとしたのを思い出した。通されたリビングの先に見えるのは、大きなガラス一枚で隔てられた浴室だった。

 取材中、作家さんの背中越しに、バスタブが視界に入る。ちょっとエロティックというか、いや、かなりのもの。もう20年近く昔のことだからインタビューの詳細はおぼろげだが、ガラスの浴室だけはくっくり脳裏に残っている。

 ところで平田さんのエッセイを読んでいて、不思議だなぁと思ったのは、これだけのこだわりの部屋をつくっておきながら、オーナーはなぜ賃貸にだすことにしたのか? 


 さて。部屋探しといえば、転居から間もなく一年になる。このたびのワタシが望む条件は、静かであること。その一点だった。

 会社勤めではないので、都心に出るのに不便でなければ、極端な話どこでもいいい。とにかく、静寂がいちばん。

 前の住居は、40世帯ほどの駅に近いマンションで住みやすかったのだが、新しく入居してきた上階の騒音に白旗をあげてしまった。

 建物の構造が安普請のせいもあるが、なんせドアや襖を開け閉めするたびに音が、真下に伝わってくる。たぶん、ジブンの部屋の音も下に響いていたと思う。

 朝の10時くらいには決まって、ガァガァガァガーー‼ 掃除機だろう。日中、在宅で仕事をすることが多く、気に障りはするものの、ここまでは生活ノイズと我慢していた。

 もうあかんわ。

 時間を問わず、頭上からカナヅチでコンコン叩いているような音が10分、ときには30分くらい断続的に響いてくる。

 最初は、工事でもしているのかと思っていたが、夜9時10時になって始まるときがある。いくらなんでも工事はないよな。

 なんの音?
 あまりに連夜となるので上階に聞きに行くと、風呂上りの30代くらいのダンナさんが、
「響いていますか?」。
 原因は、意外なことに、生まれて数か月の赤ん坊が足をバタバタさせる震動だった。

 事情は呑み込めたし、「気をつけます」と言われたのでその場はお互いさまと引き上げた。

 しかし。

 一向に改善される気配もなく、むしろ徐々に大きる。上陸したシン・ゴジラの成長のようだった。

 夜はまわりが静まり返っているだけに、より大きく聴こえる。「赤ん坊なんだから」と我慢しなきゃと思うほどに、これがかなりのストレスで、二度三度と話しに行くものの、「そう言われても、これから子供はどんどん大きくなりますから」と不満顔をされ、二足歩行を始めたゴジラがドシンドシンとかけまわる姿を想像した時点で、降参を決めた。

 なんで、こちらが…。引っ越しのお金もかかるし。釈然としない思いはあったものの、もうイイトシだし、残りの人生を勘案したら、こんなことで時間をつぶしても面白くないなぁと。そういえば口を尖らせたときのダンナの顔はアベさんに似ていた。

 現在のマンションは、各階2室、エレベータなしの四階建て。急傾斜の階段を上り下りするたび、中島らもさんのように足をすべらして転落するんじゃないかと恐る恐るだが、一階が米屋さんというのが決め手。精米したての米が食べられるというのが魅力だった。

 入居後、独立した洗面所がなく、洗濯機もベランダの外置きだったり、キッチンの換気扇の場所がどうしてこの位置? 窓を開ければハトが電線に並んで日向ぼっこをしていて目が合うのがなんかミョウだったり、細かい「なんで?」というポイントは出てきたものの、まあ満足している。誤解されると困るけど、赤ん坊が嫌いなのではない。 「子供のすることだから」とシレッとしていられる大人が大嫌いなのだ。

Profile/プロフィール

「ウラカタ伝」 waniwanio.hatenadiary.com

ブログのインタビュー連載 「葬儀屋、はじめました。」

otomu.hatenadiary.com

朝山 実(あさやま・じつ) 1956年、兵庫県 生まれ。地質調査員、書店員などを経て 、ライターとなる。「居 場所探し」をテーマに人物ルポやインタビューを数多く手がける。著書に『イッセー尾形の人生コーチング』(日経BP 社)、映画のノベライズ『パッチギ!』(キネマ旬報 社) 、アフター・ザ・レッド 連合赤軍 兵士たちの40年』(KADOKAWA)、『父の戒名をつけてみました』(中央公論新社)など


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